明治時代の寄席で、“三題噺” (さんだいばなし)というものが、流行ったそうです。一見関係の無さそうな三つのお題を客席からもらい、噺家がうまく一席にまとめるというものです。

 

 さて、これからの話は、実際に私が司法書士の実務で経験した話です。

 「離婚」と「養育費」は繋がりを感じますが、「成年後見」は全然関係ないと思うことでしょう。しかし、実は関係があるのです。場合によっては、深く繋がっているといってもいいかもしれません。

 

 Aさんは80歳で、独り暮らしの男性です。ある日脳梗塞で倒れ、病院に運ばれました。Aさんは脳梗塞のため、はっきりした受け答えができません。保佐相当の判断能力だったので、保佐開始の審判がなされ、私が保佐人に就任しました。

 Aさんの話や、そのほかの資料から、Aさんは数十年前に離婚し、別れた妻が引き取った子どもたちがいる、とわかりました。そして、関係者からの話からわかったことは次のとおりです。40年くらい前、Aさんが働き盛りの頃、協議離婚しました。離婚後、子どもたちと会うことはありませんでした。養育費の取り決めはなく、子どもたちを養育しませんでした(養育費を払いませんでした)。 おそらく子どもたちは、母子家庭で、経済的に苦しい生活をしてきたことでしょう。私がAさんの保佐人として、子どもに連絡をした時、子どもはこう答えました。「Aさんが自分の父親であることは知っています。両親が離婚した後、私たちは貧しい暮らしをしてきました。自分はAさんがどうなろうと、一切かかわるつもりはありません。」

 Aさんは離婚後、独りで暮らしてきました。働き盛りの独身男性なので、独り暮らしには充分な収入がありました。ゆとりのある生活を続けてきました。稼いだお金は、すべて娯楽と遊興費に使いました。元気な時には何度も海外旅行に出かけ、「楽しく」過ごしてきました。しかし、脳梗塞で倒れ、施設に入った後は、誰も面会に来ることはなく、子どもたちから優しい声をかけられることはありませんでした。Aさんはひっそりとこの世を去りました。

 

 

 ここに紹介した「Aさん」は事実をもとにしています(ただし、個人を特定できないよう細部は変えています)。そして、「Aさん」は「1人」ではありません。私が実際に関わった「Aさん」は4人です。そして、離婚後に養育費を支払わない父親(別居親)が、日本全国に多数いることを考えると、数万人から数十万人の「Aさん」がいると思われます。

 私は、司法書士として、離婚と成年後見の両方に関わっています。もちろん、同一人物の「離婚と成年後見」に関わるわけではありません。離婚するのは、30歳代から50歳代の人たちですし、成年後見は80歳代が中心です。ですから、私が離婚で関わる人たちは、40年後に「Aさん」になるかもしれない人たちです。若くて元気な時に、脳梗塞やアルツハイマー病で判断力を失った後のことを考える人は、ほとんどいません。私が離婚する男性に、「しっかり養育費を支払わないと、数十年後にざみしい思いをしますよ」と話しても、自分のこととして受け止める人はいないようです。

 

 離婚する人は、“今”しか見えていないようです。

 しかし、“先”がどうなるかも、大切なことだと思います。

 

仁平司法書士事務所

   
所在地   〒437-1301  静岡県掛川市横須賀1441-1
電話   0537-48-2998

 

 

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