風力発電用設備を設置するための区分地上権設定登記について、相談を受けました。地上権を設定する土地が農地である場合は、農地法所定の許可が必要かどうかが問題となります。

 

1. まず実体法の規定について検討します。

 

 農地法 第3条1項は、

農地又は採草放牧地について所有権を移転し、又は地上権、永小作権、質権、使用貸借による権利、賃借権若しくはその他の使用及び収益を目的とする権利を設定し、若しくは移転する場合には、政令で定めるところにより、当事者が農業委員会の許可を受けなければならない。ただし、次の各号のいずれかに該当する場合及び第五条第一項本文に規定する場合は、この限りでない。(以下省略)

と規定しています。

この規定によると、農地に地上権を設定するためには、原則として農業委員会の許可を受けなければならず、「ただし書き」に該当する場合に例外として農業委員会の許可を受ける必要がありません。例外は1号から16号まであります。

 

農地法3条1項16号は

「十六  その他農林水産省令で定める場合」

です。

 

 農林水産省令である農地法施行規則 第15条(農地又は採草放牧地の権利移動の制限の例外)は、16号の具体的内容を13種類定めており、

 

農地法施行規則 第15条7号は、

七  電気事業法 (昭和三十九年法律第百七十号)第二条第一項第十七号 に規定する電気事業者(同項第三号 に規定する小売電気事業者を除く。以下「電気事業者」という。)が送電用若しくは配電用の電線を設置するため、又は同項第十五号 に規定する発電事業者がプロペラ式発電用風力設備のブレードを設置するため民法第二百六十九条の二第一項 の地上権又はこれと内容を同じくするその他の権利を取得する場合」

と規定しています。

 

 つまり、

  ①電気事業者が

  ②プロペラ式発電用風力設備のブレードを設置するため

  ③区分地上権(民法第二百六十九条の二第一項 の地上権)を取得する場合

は、農地法施行規則第15条7号(農地法3条1項の例外)に該当するため、農業委員会の許可を受ける必要がない、ということになります。

(注:ブレードとは、プロペラの羽根を指します)

 

 相談のケースでは、発電事業届出書(経済産業省への届出)があり、上記の条件に該当するケースでした。したがって、この場合、農業委員会の許可は不要です。

 

 

 

2. つぎに登記手続きについて検討します。

 

 登記申請の準備に当たって、検討したことは、登記原因証明情報の内容についてです。登記官の審査権限は、形式的審査ですので、登記原因証明情報と添付情報のみにもとづいて審査されます。

 という事は、登記原因証明情報と添付情報から、上記①②③を満たしていると判断できる必要があると考えます。

 これを踏まえて作成した登記原因証明情報は、以下のとおりです。(なお、下記の登記原因証明情報で登記申請は受理されましたが、個別に登記官と協議する事をお勧めします。)

 

 

 

                                            登記原因証明情報

 

1.登記申請情報の要項

(1)登記の目的   地上権設定

(2)登記の原因   平成**年**月**日 設定

(3)当事者     権利者  ○○市××町1234番地の1

                   株式会社ABC

           義務者   〇〇市△△町5678番地の5

                   □山□子

 

(4)不動産の表示  後記のとおり

 

2.登記の原因となる事実又は法律行為

平成**年**月**日、地上権者株式会社ABCと設定者□山□子は、本件不動産につき、下記内容の地上権設定契約を締結した。なお、本件地上権は、電気事業者がプロペラ式発電用風力設備のブレードを設置するための区分地上権である。

                   記

目的   風力発電設備所有

範囲   東京湾平均海水面より上123.5メートルから上45.6メートルの間

存続期間 平成  年  月  日から平成  年  月  日まで

地代   年額〇万円。ただし、1年に満たない期間については、年365日の日割計算による。

支払時期 毎年4月1日から翌年3月31日までを1年度とし、毎年3月31日までに、翌年度分を支払う。

 

平成**年**月**日  静岡地方法務局 ○○支局 御中

 

 上記の登記原因のとおり相違ありません。

 

  (以下省略)

 

 

 

 

 

3. その他の検討事項

 

 「プロペラ式発電用風力設備」と言うのは、近頃色々な場所に設置されるようになったので、目にする期間が増えました。高さ数十メートルの塔(本体部分)にプロペラが付いており、風向きによってプロペラの向きが変わる工作物です。上述の区分地上権は、プロペラが旋回する部分の地上権(区分地上権)です。農地法施行規則第15条7号はプロペラ部分の地上権に関する規定であり、本体部分については何も触れていません。したがって、本体部分が農地の場合は、農地法3条の原則どおり、農業委員会の許可が必要です。

 

 本件とは別の、風力発電設備の設置について、地役権を設定する場合があるようです。農地法施行規則第15条7号に「地上権又はこれと内容を同じくするその他の権利を取得する場合」と記載されているので、地役権の設定についても適用されるものと思われます。

 

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