2017年 6月の記事一覧

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17年06月25日 15時14分22秒
Posted by: niheijimusho

 明治時代の寄席で、“三題噺” (さんだいばなし)というものが、流行ったそうです。一見関係の無さそうな三つのお題を客席からもらい、噺家がうまく一席にまとめるというものです。

 

 さて、これからの話は、実際に私が司法書士の実務で経験した話です。

 「離婚」と「養育費」は繋がりを感じますが、「成年後見」は全然関係ないと思うことでしょう。しかし、実は関係があるのです。場合によっては、深く繋がっているといってもいいかもしれません。

 

 Aさんは80歳で、独り暮らしの男性です。ある日脳梗塞で倒れ、病院に運ばれました。Aさんは脳梗塞のため、はっきりした受け答えができません。保佐相当の判断能力だったので、保佐開始の審判がなされ、私が保佐人に就任しました。

 Aさんの話や、そのほかの資料から、Aさんは数十年前に離婚し、別れた妻が引き取った子どもたちがいる、とわかりました。そして、関係者からの話からわかったことは次のとおりです。40年くらい前、Aさんが働き盛りの頃、協議離婚しました。離婚後、子どもたちと会うことはありませんでした。養育費の取り決めはなく、子どもたちを養育しませんでした(養育費を払いませんでした)。 おそらく子どもたちは、母子家庭で、経済的に苦しい生活をしてきたことでしょう。私がAさんの保佐人として、子どもに連絡をした時、子どもはこう答えました。「Aさんが自分の父親であることは知っています。両親が離婚した後、私たちは貧しい暮らしをしてきました。自分はAさんがどうなろうと、一切かかわるつもりはありません。」

 Aさんは離婚後、独りで暮らしてきました。働き盛りの独身男性なので、独り暮らしには充分な収入がありました。ゆとりのある生活を続けてきました。稼いだお金は、すべて娯楽と遊興費に使いました。元気な時には何度も海外旅行に出かけ、「楽しく」過ごしてきました。しかし、脳梗塞で倒れ、施設に入った後は、誰も面会に来ることはなく、子どもたちから優しい声をかけられることはありませんでした。Aさんはひっそりとこの世を去りました。

 

 

 ここに紹介した「Aさん」は事実をもとにしています(ただし、個人を特定できないよう細部は変えています)。そして、「Aさん」は「1人」ではありません。私が実際に関わった「Aさん」は4人です。そして、離婚後に養育費を支払わない父親(別居親)が、日本全国に多数いることを考えると、数万人から数十万人の「Aさん」がいると思われます。

 私は、司法書士として、離婚と成年後見の両方に関わっています。もちろん、同一人物の「離婚と成年後見」に関わるわけではありません。離婚するのは、30歳代から50歳代の人たちですし、成年後見は80歳代が中心です。ですから、私が離婚で関わる人たちは、40年後に「Aさん」になるかもしれない人たちです。若くて元気な時に、脳梗塞やアルツハイマー病で判断力を失った後のことを考える人は、ほとんどいません。私が離婚する男性に、「しっかり養育費を支払わないと、数十年後にざみしい思いをしますよ」と話しても、自分のこととして受け止める人はいないようです。

 

 離婚する人は、“今”しか見えていないようです。

 しかし、“先”がどうなるかも、大切なことだと思います。

 

仁平司法書士事務所

   
所在地   〒437-1301  静岡県掛川市横須賀1441-1
電話   0537-48-2998

 

 

17年06月23日 17時09分40秒
Posted by: niheijimusho

 風力発電用設備を設置するための区分地上権設定登記について、相談を受けました。地上権を設定する土地が農地である場合は、農地法所定の許可が必要かどうかが問題となります。

 

1. まず実体法の規定について検討します。

 

 農地法 第3条1項は、

農地又は採草放牧地について所有権を移転し、又は地上権、永小作権、質権、使用貸借による権利、賃借権若しくはその他の使用及び収益を目的とする権利を設定し、若しくは移転する場合には、政令で定めるところにより、当事者が農業委員会の許可を受けなければならない。ただし、次の各号のいずれかに該当する場合及び第五条第一項本文に規定する場合は、この限りでない。(以下省略)

と規定しています。

この規定によると、農地に地上権を設定するためには、原則として農業委員会の許可を受けなければならず、「ただし書き」に該当する場合に例外として農業委員会の許可を受ける必要がありません。例外は1号から16号まであります。

 

農地法3条1項16号は

「十六  その他農林水産省令で定める場合」

です。

 

 農林水産省令である農地法施行規則 第15条(農地又は採草放牧地の権利移動の制限の例外)は、16号の具体的内容を13種類定めており、

 

農地法施行規則 第15条7号は、

七  電気事業法 (昭和三十九年法律第百七十号)第二条第一項第十七号 に規定する電気事業者(同項第三号 に規定する小売電気事業者を除く。以下「電気事業者」という。)が送電用若しくは配電用の電線を設置するため、又は同項第十五号 に規定する発電事業者がプロペラ式発電用風力設備のブレードを設置するため民法第二百六十九条の二第一項 の地上権又はこれと内容を同じくするその他の権利を取得する場合」

と規定しています。

 

 つまり、

  ①電気事業者が

  ②プロペラ式発電用風力設備のブレードを設置するため

  ③区分地上権(民法第二百六十九条の二第一項 の地上権)を取得する場合

は、農地法施行規則第15条7号(農地法3条1項の例外)に該当するため、農業委員会の許可を受ける必要がない、ということになります。

(注:ブレードとは、プロペラの羽根を指します)

 

 相談のケースでは、発電事業届出書(経済産業省への届出)があり、上記の条件に該当するケースでした。したがって、この場合、農業委員会の許可は不要です。

 

 

 

2. つぎに登記手続きについて検討します。

 

 登記申請の準備に当たって、検討したことは、登記原因証明情報の内容についてです。登記官の審査権限は、形式的審査ですので、登記原因証明情報と添付情報のみにもとづいて審査されます。

 という事は、登記原因証明情報と添付情報から、上記①②③を満たしていると判断できる必要があると考えます。

 これを踏まえて作成した登記原因証明情報は、以下のとおりです。(なお、下記の登記原因証明情報で登記申請は受理されましたが、個別に登記官と協議する事をお勧めします。)

 

 

 

                                            登記原因証明情報

 

1.登記申請情報の要項

(1)登記の目的   地上権設定

(2)登記の原因   平成**年**月**日 設定

(3)当事者     権利者  ○○市××町1234番地の1

                   株式会社ABC

           義務者   〇〇市△△町5678番地の5

                   □山□子

 

(4)不動産の表示  後記のとおり

 

2.登記の原因となる事実又は法律行為

平成**年**月**日、地上権者株式会社ABCと設定者□山□子は、本件不動産につき、下記内容の地上権設定契約を締結した。なお、本件地上権は、電気事業者がプロペラ式発電用風力設備のブレードを設置するための区分地上権である。

                   記

目的   風力発電設備所有

範囲   東京湾平均海水面より上123.5メートルから上45.6メートルの間

存続期間 平成  年  月  日から平成  年  月  日まで

地代   年額〇万円。ただし、1年に満たない期間については、年365日の日割計算による。

支払時期 毎年4月1日から翌年3月31日までを1年度とし、毎年3月31日までに、翌年度分を支払う。

 

平成**年**月**日  静岡地方法務局 ○○支局 御中

 

 上記の登記原因のとおり相違ありません。

 

  (以下省略)

 

 

 

 

 

3. その他の検討事項

 

 「プロペラ式発電用風力設備」と言うのは、近頃色々な場所に設置されるようになったので、目にする期間が増えました。高さ数十メートルの塔(本体部分)にプロペラが付いており、風向きによってプロペラの向きが変わる工作物です。上述の区分地上権は、プロペラが旋回する部分の地上権(区分地上権)です。農地法施行規則第15条7号はプロペラ部分の地上権に関する規定であり、本体部分については何も触れていません。したがって、本体部分が農地の場合は、農地法3条の原則どおり、農業委員会の許可が必要です。

 

 本件とは別の、風力発電設備の設置について、地役権を設定する場合があるようです。農地法施行規則第15条7号に「地上権又はこれと内容を同じくするその他の権利を取得する場合」と記載されているので、地役権の設定についても適用されるものと思われます。

 

17年06月04日 15時19分05秒
Posted by: niheijimusho

最高裁判所が、成年後見関係事件の概況-平成28年1月~12月-を公開しました。

 

平成281月~12月の新規の申立件数は、総数で対前年比約1.5%減少しました。減少したものの、ほぼ横ばいと言えます。

一方、平成2812月末の成年後見制度の利用者数は、いずれの類型も増加しました。

5年連続で増加しており、今後も増加が続くと、私は考えます。

保佐類型の増加が目立っています。最高裁の統計ではこれについてのコメントがありませんが、身寄りのない高齢者について、判断力を喪失する前に法定後見の利用を進めた結果であろうと、私は推測しています。

 

統計の詳細は、こちら

http://www.courts.go.jp/about/siryo/kouken/

 

 


平成281月~12月の申立件数

総数                     34,249             (対前年比1.5%減)

成年後見              26,836             (対前年比2.5%減)       

保佐                     5,325           (対前年比4.7%増)       

補助                     1,297           (対前年比4.6%減)       

任意後見監督人      791            (対前年比3.1%減)       

 

 

 

成年後見制度の利用者数について-平成2812月末時点

総数                     203,551           (対前年比6.4%増)

成年後見              161,307           (対前年比5.6%増)        (構成比79.2%)

保佐                     30,549         (対前年比10.5%増)      (構成比15.0%)

補助                       9,234         (対前年比5.5%増)        (構成比  4.5%)

任意後見                2,461         (対前年比9.6%増)        (構成比  1.2%)

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