数年前のことです。
「急いで信託をして欲しい。何が必要か教えて欲しい。」というご相談がありました。
正直言って、当時民事信託というものがどういうものかよくわかっておらず、「いきなり"信託"とか"急いで"とか言われても・・・」という感じだったのですが、事情を聞いてみると大体こんな感じの話でした。

ある方(仮にAさんとしましょうか)が脳の疾患で入院し、治療は終わってこの度施設に移ることになった。
今までAさんは自宅でずっと一人暮らしで結婚歴や子供もいないとのこと。
隣に姉(Bさんにしましょう)夫婦が住んでいるが、Aさんはもう自宅に帰る程に回復することは考えられず、今後施設や介護費用も捻出しないといけなくなることが想像に難くないので、Aさんの自宅を売ってそのお金をAさんの介護費用等に充てたい。
しかし買主が見つかった時点で、Aさんの判断能力が落ちている可能性が高いので、Bさんを受託者として信託してから売りたい。

なるほど。
私も、なんにも知らないとはいえ、信託すれば受託者に所有権が移るくらいは聞いたことがあります。
その受託者が売るのであれば、今後Aさんの判断能力が落ちても関係ないと考えたようです。

そして、受任して作業に着手してから、いろいろと本を買いあさりました。
私の地元で民事信託に関わった同業者がいるなんて聞いたことがありませんし、不動産登記法改正前は都会の司法書士からの申請代理で信託銀行がらみの書類をチラホラ見たことはありますが、最近では申請代理なんて法務局のオンライン化と当事者出頭主義の廃止や本人確認の厳格化もありほとんど事案がありません。
正直、信託目録付きの登記簿謄本なんか見たこともありませんでした。
相談できる相手もいないので、頼れるのは本だけです。
ただ、いくら本を調べ読みあさっても経験というリアリティーがないので、なぜかしっくりこない四苦八苦した中で契約条項を考え契約日を迎えました。

Aさんとは施設の面談室でお会いしたんですが、経験がない中で作った信託の契約内容もさることながら、一番心配だったのはAさんの判断能力でした。
Bさんをはじめご家族に車椅子を押されながら現れたAさんはこちらがご挨拶してもほとんど会話はできない状態でした。
「これは難しいかな。」と思いながらも、これから信託の契約の説明をして契約書にお名前を書いてもらいますといったお話をしたときに、突然Aさん無言で車椅子を自分で動かして部屋に戻ろうとしたんです。
ご家族も驚いて、「どこ行くんだ?まだ終わってないよ。」と声を掛けるんですが、まったく聞かずに部屋に戻ってしまいました。
これは実は契約書に名前を書かないといけないと聞いて、眼鏡を取りに戻られたのでした。
面談室に戻ったAさんは、私の説明をわずかにうなずきながら聞いてくれ、最後に動かない手を一生懸命動かして契約書にハッキリと読める字で署名をしてくれて去って行きました。
Aさんは会話という手段では名前も生年月日も言えませんでしたが、この方は確かに自分の意思で説明を聞き判断して契約を締結していると確信し、感動すら覚えました。

その後、信託登記も無事に済ませて完了となりました。
完了書類一式を返却したときのBさん夫婦の安堵したお顔は今でも印象に残っています。


後編に続きます。※後編は12月27日投稿予定です


※今回の投稿は当職の取り扱った実際の事件について触れておりますが、依頼者様から個人情報や個人を特定するような記載をしない前提で投稿の許可をいただきました。

 

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